医療法務コラム
インフォームド・コンセントと医師の説明義務
1.インフォームド・コンセントとは
インフォームド・コンセントとは、診療に先立ち医師が患者に十分な情報を提供し、患者がその内容を理解したうえで診療について同意していることをいいます。診療にあたって患者の自己決定権を尊重するための概念といわれています。
診療行為は患者の病気の治癒や生命の維持を目的とするものですが、その過程において、患者の身体への侵襲を伴うことがあります。このような診療行為が刑法上正当化されるためには、原則として、患者本人ないしこれに準ずる者の同意があることが必要です。なお、診療行為が正当化されるためには、その他にも当該行為が医学的にみて診療の目的に適合するものであり、かつ、手段として相当なものであることが必要ですので、ご注意ください。
2.医師の説明義務
(1)インフォームド・コンセントと説明義務
上記1のとおり、インフォームド・コンセントとは、患者が診療を受けるか否かの意思決定を行うために必要な情報を与えられたうえで診療に同意していることを意味します。すなわち、「診療を受けるか否かの意思決定を行うために必要な情報を与えられている」とは、裏を返せば、「医師から診療に関する十分な説明を受けている」ということがいえます。
このように、医師の説明義務が十分に履行されることによって、インフォームド・コンセントの有効性が担保されることになるので、インフォームド・コンセントと医師の説明義務とは、表裏一体の関係にあるともいえるでしょう。
なお、判例上、医師の説明義務は、診療契約に不随する義務として、医師の診療債務の一部を構成するものと位置づけられていますので、この説明義務に違反した場合、債務不履行に該当し、損害賠償の対象となるおそれがあります。
(2)説明すべき項目
では、医師は診療行為を行うにあたり、どのような項目について患者に説明すべき義務を負うのでしょうか。
この点、平成13年11月27日最高裁判決は、「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、①当該疾患の診断(病名と病状)、②実施予定の手術の内容、③手術に付随する危険性、④他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、⑤予後などについて説明すべき義務があると解される」と述べています。
なお、厚労省診療情報提供指針や医師会診療情報提供指針においても、説明すべき項目があげられていますので、ご参考にしてください。
3.トラブルを避けるためのポイント
後に、医療過誤の疑いが出て、患者や遺族側とその代理人が医療記録を入手した際に、当時、担当医師が説明義務を履行していたことが一見してわかるように、侵襲的な治療や検査を行う際には、その患者特有の危険性があるかを考えて、上記2の判例に示された①から⑤の項目を説明した旨を説明文書等にして記録に残すようにしましょう。
なお、術前説明が行われた後は、患者の認識や言動などを看護記録に残すことで上記の項目の説明義務が履行されたことの間接的な証拠にもなり得ますので、普段から看護士にそのように指導していただくとよいでしょう。
説明義務やインフォームド・コンセントに関してお悩みの病院経営者・医師の方は、この問題に詳しい弁護士にご相談ください。