医療法務コラム
カルテの記載事項と保存期間
第1.初めに
医師が患者の病状や治療内容等を記録した文書を「カルテ」(=診療録)といいますが、カルテの記載事項や保管期間は法律で明確に定められています。
そこで、今回は、カルテに関する基礎知識を法律的な観点から解説していきます。
なお、「カルテ」という言葉は、厳密にいうと、診療録を指す場合と、診療に関する諸記録(病院日誌、処方箋、手術記録等)をも含んで指す場合がありますが、今回は前者の場合を想定していますので、ご留意ください。
第2.カルテの記載事項
1 カルテの記載方法
医師法24条1項は、「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定め、カルテの作成を義務付けています。
そして、医師法施行規則23条は、
①診療を受けた者の住所、氏名、性別及び年齢
②病名及び主要症状
③治療方法(処方及び処置)
④診療の年月日
上記4項目をカルテに記載しなければならないとしています。
カルテの記載方法としては、一般的に、「SOAP」といわれる方式がとられていることが多いでしょう。「SOAP」とは、
S(subject)=主観的情報…患者の主訴、自覚症状
O(object)=客観的情報…身体所見や検査結果の内容
A(assessment)=評価…主観的情報や客観的情報の分析結果、患者の状態に対する評価
P(plan)=計画…今後の治療方針、治療計画
を指します。このように情報を整理して記載することにより、患者の問題点や今後の治療方針が明確になるといえます。
2 電子カルテ
近時は、紙媒体ではなく電子媒体によりカルテを作成・保存している病院も多いかと思います。
電子カルテを導入する場合、記載事項等の基本的なルールに加えて、以下の3要件を満たさなければならないとされています。
①真正性の確保
「正当な権限で作成された記録に対し、虚偽入力、書換え、消去及び混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であること」
②見読性の確保
「電子媒体に保存された内容を、『診療』、『患者への説明』、『監査』、『訴訟』等の要求に応じて、それぞれの目的に対し支障のない応答時間やスループット、操作方法で、肉眼で見読可能な状態にできること」
③保存性の確保
「記録された情報が法令等で定められた期間にわたって真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されること」
引用:「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(令和5年5月)Q&A」
(厚生労働省、令和5年9月、p13)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001145860.pdf
この3要件はあくまでもガイドラインに基づくものであるため、これを遵守しなかったからといって、それ自体が直ちに法律違反ということにはなりません。
もっとも、この3要件を遵守しなかったために、患者の個人情報が流出したということになれば、個人情報保護法違反として罰則が科されるおそれがあります。
そのため、この3要件は必ず遵守するようにしましょう。
第3.カルテの保存期間
療養担当規則9条は、「保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。」として、カルテの保存期間を5年と定めています。
ここで注意していただきたいのが、5年の起算点です。
同条但し書きでは、5年の起算点を「その完結の日から」としているところ、これは、当該患者に対する診療が完了した日と解されています。つまり、当該患者に対する診療が続いているうちは、保存期間のカウントが始まりません。
診療をスタートした日から5年というわけではありませんので、ご注意ください。
第4.法的紛争に備えて
1 カルテの記載の重要性
カルテ等の医療記録は、言わずもがな患者の状態を確認したり、治療行為を行ったりする上で必要不可欠なものですが、仮に患者との間で法的紛争(医療過誤訴訟等)が生じた場合には、適切な医療サービスが行われたかどうかを判断する上での重要な証拠にもなります。
その中でもカルテは、特に信用性を有していると考えられており、カルテに記載されている事実については、基本的にその事実が存在するものと認定される可能性が高いです。
そのくらいカルテは裁判で強い効力を有しており、事後的な紛争に備える意味でも、法律やガイドラインに則った上でカルテを作成することが重要でしょう。
2 保存期間と消滅時効の観点
仮に、医療過誤があったとして、患者が病院を相手に損害賠償請求を行う場合、消滅時効は最長で20年となります(債務不履行の場合:民法166条1項2号・167条、不法行為の場合:同法724条2号)。
そのため、いつあるかもしれない裁判に備えるという意味では、法律上の保存期間(5年)に関わらず、20年間保存するというのがベターな対応といえます。
第5.終わりに
今回は、カルテの記載事項や保存期間等の基礎的な知識を解説しました。
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