医療法務コラム
個別指導の留意点(診療報酬の算定に関して)
1.はじめに
地方厚生局による個別指導においては、診療報酬の算定・請求が法律に則った適正なものであるかどうかついても厳格なチェックがなされます。
個別指導において診療報酬の算定・請求について問題が指摘されることで、再指導や監査の対象となってしまうと、その対応のために通常の業務を圧迫したり、最悪の場合には医院の存続に支障を来す不利益処分を受ける事態にも発展しかねないため、日頃から診療録の記載につき十分に注意しておく必要があります。
以下では、このような診療報酬の算定・請求について、個別指導対策の観点から解説していきます。
2.診療報酬の算定方法(総論)
診療報酬の算定方法については、「…療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣が定めるところにより、算定するものとする。」と定める健康保険法第76条第2項の規定を受けて、平成20年厚生労働省告示第59号において定められています。
個別指導でも、同告示の定める算定方法に基づき、請求の適否が審査されることになります。
3.診療報酬の算定方法(各論)
(1) 初・再診料
個別指導では、同一の疾病・傷病の診療を行っているのに初診料を算定していたり(慢性疾患等の場合)、初診又は再診に付随する一連の行為で来院しているのに再診料を算定している場合等について、不適切との指摘がなされています。
(2) 入院料
個別指導では、入院診療計画書や説明に用いた文書につき、参考様式で示されている項目の記載を欠く場合や、入院診療計画が関係職種との共同で策定されていない(医師と看護師のみによって策定されている)場合につき、不適切との指摘がなされています。
また、救急医療管理加算や重傷者等療養環境特別加算といった各種加算につき、対象の状態でない患者に対して加算している場合や、総合評価加算において患者及びその家族等に説明した総合的な機能評価の結果が診療録に記載されていない場合等につき。不適切との指摘がなされています。
(3) 医学管理等
「医学管理等」は、医師による患者指導自体を評価する算定項目ですが、患者への指導を行っただけで算定できるわけではなく、指導内容及び診療録の記載事項が、各項目の算定要件に合致している場合に算定できます。
個別指導では、特定疾患療養管理料につき、治療計画に基づく管理内容の要点について診療録への記載を欠く場合、特定疾患治療管理料につき、診療計画及び診療内容の要点につき診療録への記載がない又は不十分である場合等につき、不適切との指摘がなされています。
(4) 在宅医療
在宅患者診療・指導料には、以下のような分類があります。
・往診料
患者の求めに応じて患家に赴き行った診療について算定
・在宅患者訪問診療料
疾病・傷病のために通院による療養が困難な患者を定期的に訪問して行う診療について算定
・在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料
個別の患者ごとに総合的な在宅療養計画を作成し、患者等に内容を説明し、在宅療養計画及び説明の要点等をカルテに記載して算定
・訪問看護指示料
主治医が介護保険の指定居宅サービス事業者または健康保険の指定訪問看護事業者からの訪問看護の必要性を認め、患者の同意を得て、患者の選んだ訪問看護ステーションに訪問看護指示書を交付した場合に算定
個別指導では、各分類にあてはまらないものについて算定している場合等について、不適切との指摘がなされています。
(5) 検査・画像診断
個別指導では、医学的に必要性が乏しい検査(必要な項目以外の検査、最小限の回数を超える検査)や、算定可能な組み合わせに該当しない検査について算定されている場合、診療録等に記載すべき事項の記載を欠く場合等について、不適切との指摘がなされています。
(6) 投薬・注射
薬剤の使用にあたっては、医薬品医療機器等法承認事項を遵守し、患者を診察した上で投薬・注射する必要があります。
個別指導では、長期にわたり漫然と投与した場合や、薬剤投与の判断をした趣旨が診療録等に具体的に記載されていない場合等につき、不適切との指摘がなされています。
(7) リハビリテーション
リハビリテーション料を算定するには、リハビリテーション実施計画を作成し、患者に実施計画の内容を説明し、定期的に効果判定等を行わなければなりません。
個別指導では、従業者1人1日あたりの実施単位数が適切に管理されていない場合や、リハビリテーション総合実施計画書の記載が画一的である場合等につき、不適切との指摘がなされています。
(8) 処置
個別指導では、処置が長期にわたり漫然と実施されている場合や、点数表に掲げられていない簡単な処置につき基本診療料とは別に算定している場合等につき、不適切との指摘がなされています。
(9) 手術
個別指導では、手術の内容等について文書を用いて十分に患者へ説明していない場合や、手術記録が十分に記載されていない場合等につき、不適切であるとの指摘がなされています。
4.最後に
以上のように、診療報酬の算定・請求については複雑で細かなルールが設けられており、個別指導における審査も厳格であるため、日頃から対策を立てておくことが不可欠です。
もし、「個別指導で診療報酬請求について指摘を受けるのではないか不安」といったことでお困りなら、保険診療の個別指導対策に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。