医療法務コラム
医療広告ガイドラインとは?広告表示の際に注意すべき点を弁護士が解説
目次
第1 医療広告ガイドラインとは?
医療広告については、医療法をはじめとした法律により制限されてきましたが、美容医療サービスに関する消費者トラブルの増加を受け、平成30年に医療法が法改正されたことでウェブサイトが規制対象となる等、規制の対象が拡大しています。医療広告ガイドラインは、医療広告に対する法的規制を前提として、医療機関が広告を行う際に遵守すべき基準を定めた指針となります。
第2 医療広告ガイドラインが適用されるもの・適用されないもの
1 医療広告ガイドラインが適用されるもの
医療広告とは、①患者を誘引する意図があること(誘因性)、②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能性であること(特定性)の2要件を満たすものと定義されます。この2要件に該当する広告は、医療広告として規制対象となります。
2 医療広告ガイドラインが適用されないもの
以下のようなものは、上記2要件を満たさず、原則、医療広告に当たりません。
①学術論文、新聞記事
②新聞や雑誌等での記事
③患者等が自ら掲載する体験談、手記等
④院内掲示、院内で配布するパンフレット等
⑤医療機関の職員募集に関する広告
3 認められている広告内容
医療法第6条の5第3項には、以下の内容が広告可能事項とされており、その他の事項については広告することは出来ません。
① 医師または歯科医師である旨
② 診療科名
③ 病院又は診療所の名称、電話番号、所在の場所を表示する事項並びに病院又は診療所の管理者の氏名
④ 診療日若しくは診療時間又は予約による診療の実施の有無
⑤ 法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院若しくは診療所又は医師若しくは歯科医師である場合には、その旨
⑥ 厚生労働大臣による認定を受けた医師(医師少数区域経験認定医師)である場合には、その旨
⑦ 地域医療連携推進法人の参加病院等である場合には、その旨
⑧ 入院設備の有無、病床の種別ごとの数、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の従業者の員数その他の当該病院又は診療所における施設、設備又は従業者に関する事項
⑨ 当該病院又は診療所において診療に従事する医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴その他のこれらの者に関する事項であって医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもの
⑩ 患者又はその家族からの医療に関する相談に応ずるための措置、医療の安全を確保するための措置、個人情報の適正な取扱いを確保するための措置その他の当該病院又は診療所の管理又は運営に関する事項
⑪ 紹介をすることができる他の病院若しくは診療所又はその他の保健医療サービス若しくは福祉サービスを提供する者の名称、これらの者と当該病院又は診療所との間における施設、設備又は器具の共同利用の状況その他の当該病院又は診療所と保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携に関する事項
⑫ 診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報の提供、第6条の4第3項に規定する書面の交付その他の当該病院又は診療所における医療に関する情報の提供に関する事項
⑬ 当該病院又は診療所において提供される医療の内容に関する事項(検査、手術その他の治療の方法については、医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるものに限る)
⑭ 当該病院又は診療所における患者の平均的な入院日数、平均的な外来患者又は入院患者の数その他の医療の提供の結果に関する事項であって医療を受ける者による医療に関する適切な選択に資するものとして厚生労働大臣が定めるもその他厚生労働大臣が定める事項
⑮ その他前各号に掲げる事項に準ずるものとして厚生労働大臣が定める事項
広告可能なのは、原則、上記各事項に限られるものの、以下のいずれの要件も満たした場合は、他の事項も広告することが可能です。
① 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
② 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
③ 自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
④ 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
第3 医療広告ガイドラインに抵触する広告の具体例
(1)広告が許可されていない事項の掲載
前記のとおり、医療法第6条の5第3項には広告可能事項が定められており、それ以外の事項については原則として広告することが出来ません。
(2)虚偽の広告
虚偽内容の広告は禁止です。「絶対安全な手術です!」 「どんなに難しい症例でも必ず成功します」といった広告も、医学上あり得ないため、虚偽広告として禁止されます。
(3)他の病院や診療所と比較して優れているとする広告
自らの病院等が他の医療機関よりも優良である旨を広告することは禁止されます。例えば、 「肝臓がんの治療では、日本有数の実績を有する病院です。」 「当院は県内一の医師数を誇ります。」といった広告がこれに当たります。
(4)誇張表現を含む広告
事実を不当に誇張したり、人に誤認させる広告は禁止されます。「医師数○名(○年○月現在)」 といった広告も、その後の状況の変化により、医師数が大きく減少した場合には、誇大広告として取り扱われるので、実態に即した人数に随時更新する必要があります。
(5)患者の体験談を使用した広告
体験談については、個々の患者の状態等により感想は異なるものであり、誤認を与えるおそれがあるため禁止されています。
(6)ビフォーアフターの写真を用いた広告
個々の患者の状態等により治療等の結果は異なりますので、誤認させるおそれがあるビフォーアフター写真等は禁止されています。もっとも、術前又は術後の写真に通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合には、医療広告として認められます。
第4 広告の合法性を確認する手順
医療広告として禁止されるか否かは、以下の順で確認するのがよいでしょう。
① 医療広告に該当するかどうかの確認
広告が医療広告の規制対象となる「誘引性」と「特定性」を備えているかを検討します。
② 広告可能事項にあたるかの確認
医療広告にあたる場合、広告の内容が医療法第6条の5第3項の広告可能事項の範囲内であるかを確認します。
③ 医療広告で禁止された内容かを確認
誇大表現や虚偽記載がないかをガイドラインに基づいて確認します。
第5 規定違反が発覚した場合の対応措置
違反が疑われる場合、医師や病院に対し、説明を求める等の任意調査、報告命令又は立入検査が行われることになります。そして、違反が確認できた場合、行政指導により広告の中止や内容の是正を求めることになります。行政指導に従わない場合や違反を繰り返す等の悪質な事例の場合には、違反広告を行った者に対し、広告の中止命令又は是正命令が行われます。
虚偽広告であった場合や中止命令若しくは是正命令に従わなかった場合には6月以下の懲役又は30万円以下の罰金、報告命令又は立入検査に対する違反の場合には20万円以下の罰金が科されます。
違反の疑いがあるとして調査が開始された場合には、広告内容について積極的に説明を行う必要がありますが、任意での広告中止又は内容の是正を求められた場合には、指導に応じた方がよいでしょう。
第6 弁護士の必要性
広告内容の適法性確認や行政指導への対応には、法的知識が求められます。作成した広告が医療広告ガイドラインに違反する場合、刑事罰を科される可能性もあるため、事前に専門家に相談することが重要です。医療機関としての信頼を守るためにも、新たな医療広告を出す際は、事前に弁護士にご相談ください。