医療法務コラム
医療機関におけるクレーマー・モンスターペイシェントへの対応方法
1.医療機関におけるクレーマー・モンスターペイシェントの現状
医療機関におけるクレーマーとは、不平・不満・怒り等の感情をもって、要求を法的な根拠もなく押し通そうとする人をいいます。
また、医療現場で、暴力や暴言、理不尽な要求を繰り返す患者やその家族を、特に「モンスターペイシェント」といいます。昨今、医療現場におけるクレームやモンスターペイシェントによる被害は増加の一途をたどっており、7割近くの医師に対応経験があるというデータもあります。
正当な理由がない限り診療を拒否できない(応召義務)ことや、怖い患者がいるといった風評被害や仕返しを恐れたりすることも、事態の悪化を招く要因と考えられます。
2.クレームの種類
(1)クレームが起きる例
医療現場で起きるクレームの発端例には,様々なものがあります。たとえば、医療過誤(の疑い)が起きた場合、個人情報の漏洩、医療従事者の言動や対応の悪さ、病室での紛失・盗難、説明(インフォームドコンセント)不足、転倒・転落事故等があげられます。
(2)クレームの内容
一言にクレームといっても、その内容は様々です。たとえば、話を聞いてほしい、説明してほしい、謝罪してほしい、お金を払ってほしい、再発防止策を講じてほしい等が考えられます。
3.対応方法
(1)初期の対応
何より、初動対応が肝心です。病院側の損害賠償責任が問題となる場合(賠償型クレーム)、病院側の損害賠償責任が問題とならない場合(非賠償型クレーム)に場合をわけて、対応を変えていく必要があります。そのいずれかを判断するために、まず、次の2点を行ってください。
① 事実関係を確認(事実の問題)
② 問題点の把握と検証(評価の問題)
(2)一般的な注意点
上記①事実関係を確認するうえでも、次の一般的な注意点に気を付けてください。
① ある程度の時間、相手の話をよく聞くことに終始しましょう
その際、言い訳や積極的な反論はせずに、相手の話を聞くことに専念してください。また、丁寧な言葉遣いや対応を心がけてください。
② クレーム内容を把握してください
相手の真意を見定めることに専念します。相手に要求を出してもらうようにするのが理想でしょう。
③ 交渉窓口は一本化してください
交渉窓口を一本化することで事実や認識、考えの食い違いを防止します。また、院長、副院長など、病院幹部を安易に出さないようにしてください。相手に過大な期待を抱かせたり、その場での解決を求めてくる恐れがあります。
④ 複数対応が原則です
交渉の際は複数で対応しましょう。交渉担当と書記担当といった具合に役割分担を決めて交渉に臨みましょう。その際、他の患者に迷惑がかからないように応対場所、時間に留意してください。交渉の際は録音をするようにしてください。
⑤ 暴力や脅しがあった場合は、毅然とした対応をしましょう
弱みをみせるとそこにつけ入ってくるおそれがあります。また、緊急事態に備えて、事前の準備と確認をしておいてください。
⑥ 対応マニュアルの作成、事案を共有する報告会を実施しましょう
普段から、対応マニュアルを作成し、クレーマー事案に備えたり、実際に事案が起きた際に事例を共有する報告会を実施する等して、院内での対応スキルを磨いておくことも大切です。
4.対応の際の注意点
(1)病院側の損害賠償責任が問題とならない場合(非賠償型クレーム)
まずは、不快な思いをさせたことに関して、真摯に謝罪をすることをお勧めします。次に、クレームを生じさせた原因を説明しましょう。改善策を講じることを約束するのもよいでしょう。安易な金銭解決は絶対に行わないでください。さらなる要求へと発展するおそれがあります。
(2)病院側の損害賠償責任が問題となる場合(賠償型クレーム)
- 事実関係を確認して、医療事故等の原因を究明してください。
- 相手方の話をよく聞いて、要求の把握に努めてください。
- 保険会社や医師会と協議して、病院側の方針を決定してください。
- 責任が明らかである場合は、速やかに謝罪をするようにしてください。
- 賠償責任の有無が微妙な事案や責任がない事案では、訴訟等による法的解決
も検討する必要があります。
5.モンスターペイシェントへの対応方法
マスコミへばらす、医師会に連絡する、警察に告訴する、裁判をする、弁護士に相談する、暴力団関係者等の反社会的勢力との付き合いをにおわす等、脅迫、強要、恐喝をしてくることがあります。
このような脅しに屈せず、毅然とした態度で対応しましょう。その際のやりとりを録音する等、証拠化しておくことも大事です。場合によっては、警察に被害届を出したり、弁護士に相談して示談交渉や法的対応をしてもらうことも検討されることをお勧めします。
クレーマー・モンスターペイシェントに関してお困りの病院・クリニック経営の方は、この分野に詳しい弁護士にご相談ください。